あらすじ
夜の帰り道。バイトを終えて重くなった体をほとんど惰性で前へと運んでいたときだった。
ふいに前を歩く人影がちらちらとこちらを振り返り始めた。
おれは眉をひそめた。この道は街灯がまばらなうえに、左右に等間隔に並ぶ木々がその光を遮り、アスファルトに濃い影を落としている。数メートル先でも輪郭はぼやけ、黒い塊が揺れているように見えるだけだ。何度目かの振り返りで、ようやくそれが女だとわかった。
おれも後ろを振り返った。……が、誰もいない。どうやら知り合いを見つけたわけではなさそうだ。
となると……ああ、そういうことか。おれは小さくため息をついた。
たぶん、おれを警戒しているのだろう。無理もない。夜道で女が一人きり。むしろ、そのくらい用心深いほうが正常だ。
もっとも、おれだって夜に前を歩くのが女だと痴漢だの不審者だのと疑われやしないかと無駄に神経を使う。そういうときは立ち止まってスマホをいじったり、靴ひもを結び直すふりをして先に行かせたり、逆に早足で追い抜いたりしている。
さて今回はどうするか。距離を詰めれば余計に怖がらせるだけだろうし、ここは立ち止まってやり過ごすか――。
そう考えた、そのときだった。女がぴたりと立ち止まった。
そして、ゆっくりと振り返った――。
「か、刀……?」