あらすじ
⓵あらすじ
海沿いの町・玻璃坂市で、祖母が遺した白い糸ランドリーを継ぐか迷っている柊斗は、地元FM局のパーソナリティ兼ライターのすみれと出会います。きっかけは、すみれの祖母・千鶴の遺品から見つかったレシピ帳でした。
黄昏どきになると、ランドリーの奥には霧の中の温室へ続く扉が現れます。その温室では、言えなかった本音や渡せなかった思いが、クリスタルとして静かに実っていました。さらに店先には、半チャーハン、半ラーメン、半餃子を出す不思議な屋台・半々亭まで姿を現します。どの料理も少し足りない量ですが、その少し足りなさが、誰かと分け合う口実になります。
誰と居ても一人だった人たちが、半分この一皿を囲みながら少しずつ心をほどき、柊斗とすみれもまた、自分の本音と向き合っていきます。やがて二人は、百年前にこの町で果たされなかった約束と、祖母たちが白い糸でつないできた思いに触れます。
けれどその一方で、港湾再編を進める輸出会社は、温室のクリスタルを高級工芸素材として商品化しようと動き始めます。町を残すために外へ売るのか、それとも、持ち主の心へ返すのか。
笑えて、お腹が空いて、最後に胸の奥がじんわり熱くなる、港町の現代ファンタジーです。
②登場人物の紹介
柊斗――祖母の店を継いだ二十七歳。人の小さな変化をよく覚えていて、温室のクリスタルに触れると、そこに宿った感情の断片を見ることができます。
すみれ――地元FM局のパーソナリティ兼ライター。誰とでも打ち解けられる明るさを持ちながら、本当に傷つくことだけは笑ってごまかしてしまいます。
丁――輸入食品店の店主。半チャーハン、半ラーメン、半餃子を、少ない量でも満足できる一皿へ仕上げる料理人です。
きこ――近所の手芸店員。白い糸や巾着づくりを通して、砕けそうな思いをやさしく包みます。
佑衣奈――輸出会社「東玻璃ロジスティクス」の企画担当。町を救うため、温室のクリスタルを外へ売り出そうとします。