あらすじ
勇者が選ばれた、その瞬間。
俺は――そこにいた。
だが、立っていたのは俺じゃない。
歓声の中心にいるのは、カインという名の青年で、俺はただ、その光景を見下ろすことしかできない場所に取り残されていた。
理由は分からない。声も届かない。触れることもできない。
それでも、なぜか分かってしまう。
この物語は、ひとつじゃない。
選ばれなかった動き。起こらなかったはずの選択。
本来存在しないはずの“もうひとつの可能性”が、確かにそこにある。
そして俺は、それに触れてしまった。
ほんのわずかに現実はズレる。
だが、その結果が何を変えるのかまでは分からない。
救われるのか、失われるのか。
正しい選択だったのか、それとも――
考える間もなく、物語は進んでいく。
勇者カインを中心に回るこの世界で、選ばれなかった俺にできることは多くない。
それでも、目の前の選択に触れてしまった以上、何もしないという選択だけは、もう残されていなかった。
これは、勇者の物語の“外側”にいる俺が、
その分岐に触れ続ける話だ。
そして――その選択が、何を残すのかを、まだ俺は知らない。