あらすじ
国立大学で自己修復金属の研究を行う助教授・久我真司は、「壊れたものは内部から再び秩序を取り戻す」という理論を追い続けていた。だがその一方で、彼自身は研究以外のものに関心を持たず、人との関係もどこか切り離されたまま生きている。
ある日、研究室に配属された学生・村瀬凛は、彼の研究に違和感を抱く。
「壊れ方にも個性があると思うんです」
欠陥を“排除すべきもの”ではなく、“構造の一部”として捉える凛の視点は、久我の理論に静かに揺らぎをもたらしていく。
古本屋「笹舟」と喫茶店「ペーパームーン」。研究室の外にあるその場所で、二人は言葉を交わし、同じ現象を違う角度から見つめ始める。
再結晶とは、完全に元へ戻ることではない。
傷を抱えたまま、別の秩序として組み替わることだ。
金属の内部で起きる再編成の過程と、二人の関係の変化が重なっていく中で、久我は初めて“理屈では測れないもの”に触れていく。
静かな熱の中で、ひび割れはやがて、別の形でつながり直す。