あらすじ
生命保険会社に勤める圭子は、孤独と虚無を抱えながら日々を過ごしていた。ある金曜の夜、同僚の直美と飲みに出かけたバーで、二人は柴田という男と出会う。直美は「稲妻の様に激しい電気が…走り抜けていった」と感じ、この男こそ運命だと直感するが、柴田が選んだのは圭子だった。圭子と柴田はその夜に関係を持ち、やがて柴田は圭子に結婚を申し込む。二人は急ぎ足で結婚し、平凡で静かな生活が始まるが、そこには愛の実感も深い理解もなかった。
一方、直美は幼い頃の妹・恵との禁忌の記憶に苦しみ、孤独と自己嫌悪の中で生きていた。恵はやがて金に困り直美を訪ねるが、直美は突き放す。その後、恵は病で死に、直美は「私があの子の死刑を執行した」と自責の念に沈む。
圭子の結婚生活は、惣菜と沈黙に満ちた「いつも通り」の日々だった。子どもの話題を出しても柴田は冷淡で、圭子は満たされない思いを抱え続ける。やがて柴田は若い部下・初美と仙台で不倫関係に陥り、圭子もまた孤独の果てに若い男と関係を持つ。二人の夫婦関係は、互いの心の空白を埋めることなく、ただ時間だけが過ぎていった。
圭子の母が突然現れ、認知症の疑いが発覚するが、柴田は戸惑いながらも受け入れようとする。しかし圭子は母を突き放し、家族の絆はさらに崩れていく。柴田は仕事の成功と転勤を経て、圭子との生活に倦み、心の奥底で別の「想い」を探し始めていた。
ある日、柴田は美術館の帰りに喫茶店へ立ち寄り、偶然直美と再会する。二人は長い沈黙の中で深い安らぎを感じ、直美は静かに告げる。「私はあなたを愛している」。柴田もまた、自分の心が直美に向いていたことを悟り、二人は「どこか遠くへ行こう」と旅立つ。
その頃、圭子は家で柴田のためにカレーを作り、帰りを待ち続けていた。「ももたろさん、ももたろさん…」と歌いながら。しかし柴田は二度と戻らなかった。圭子の時間は止まり、彼女の孤独だけが部屋に残される。