あらすじ
気象観測官の「僕」は、ある春の夜明けに不思議な男と出会う。
彼は桜の群れとともに現れ、「俺は桜のほう」と名乗った。
だが翌年も、またその翌年も再会するたびに、お互いの名前や記憶がじわじわと失われていく。桜が咲くたびに人の思い出を連れていく彼は、奪っているのではなく、誰かの一部になり続けているのだと僕は気づく。
消えゆく記憶の中でそれでも芽生えた感情を抱え、僕は彼に名前をつけることを選ぶ。「ハル」と呼んだ瞬間、何かが戻った。忘れてもまた出会い、忘れてもまた好きになる……春が来るたびに繰り返される、終わらない恋。