あらすじ
鑑定値"0"。──器の欠損として廃嫡された、伯爵家次男カルド・エンスラール十五歳。父は即断で姓以外を剥奪し、辺境の廃神殿「エル=サアロン」管理代官という名の流刑に彼を送った。
廃神殿には、先に一人の女執事が待っていた。黒髪長身のヴィエラ・ハルスタ、二十八歳。元王国近衛。そして祭壇の前には、セピアブルーの髪の巫女ネイア・オル・サアロンが、振り返らずに告げる。「来たか。待っていた」──土地と眠る遺物の声は、カルドの足裏から脊椎を昇って届いた。《目覚めよ、血継の末》。
鑑定値"0"の正体は、現鑑定器の波長では捉えきれない**旧神代英雄の血脈**だった。カルドの母エレンは辺境土着氏族カルド家の出──神殿名サアロンの末尾を継ぐ、滅びた文明の直系。警鐘樹が六千年ぶりに鳴り、石戸守が門を守り、水脈穿が涸れ井戸に水を返す。村人が膝を折る。
だが中央は動く。継母イゼルダと結託した鑑定総院・白秤派が、測定不能個体を排除するため神殿領の接収を企てた。査察官到着。接収印、紙に落ちる。──カルドは独り遺物の前に立ち、ネイアが地下文書を開く。神代英雄「サアロン・エル・**カルド**」。一致。「私は、継ぐ」。
翌朝、**霧羅陣**が領地全体を包んだ。査察官は「測定不能」と報告書に記し、撤退する。辺境伯本家派遣の中立官ケインハルト卿が合流、継母の第二手は公的記録で逆利用され、王都へ返礼の書が発つ。セニアロス神殿領は事実上の自立を宣言した。
そして祭壇の前で、カルドは自らの声で告げる。「──ゼロでよい。私は、測れない側の者として、ここに在る」。その時、禁域「咆哮の谷」が、三十三の朝を越えて初めて声を返した。