あらすじ

泣かなかった。 婚約者を妹に奪われた日も、父に違約金を辞退された日も。 伯爵令嬢フィーネの手は、涙の代わりに荷物をまとめていた。 向かった先は、王都の外れの廃れた工房。 前世で技術者だった記憶を頼りに、魔石で動く道具を作り始める。 全財産は金貨五十枚。猶予は三ヶ月もない。 失敗を繰り返し、魔石の粉で指先を荒らしながら図面を引く日々。 そこに現れたのは、設計の意図を一目で読み解く男だった。 この国の政を束ねる宰相が、なぜか毎週、工房に椅子を持ち込んで隣に座る。 フィーネにとって、設計図を理解する人間は初めてだった。 それがどういう意味を持つのか、彼女はまだ気づいていない。 一方、家を出た伯爵家では妹がある行動に出ていた。 姉のアイデアを自分の発明として、社交界に発表したのだ。 やがて二つの類似は、宮廷の噂になっていく。 フィーネの手元には、すべてを証明する記録がある。 けれど彼女はそれを出さない。 争うよりも、作りたいものがあるからだ。 設計図を読めるただ一人の男は、空になった椅子に何を残したのか。 その答えは、工房の灯りだけが知っている。

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小説を読もう2026/04/27
  • 現在の作品お好きになさって? 私は私の工房で忙しいので