あらすじ
五年前、王都を襲った大規模魔術災害「深淵災厄」。
宮廷魔術師グレン・アッシュフォードはそれを止められず、妻を失い、娘エマからも“母を殺した無能”として拒絶された。
すべてを失った彼は魔力を喪い、酒に沈み、下町の酒場でただ生き延びるだけの日々を送っていた。
だがある日、王国からの依頼が届く。
消息を絶った第三探索隊、その中には侯爵令嬢となったエマの姿があった。
救助は政治的理由で放棄されていた。
――行く理由は、もはや一つしかない。
魔力を失ったはずの男は、禁断の“契紋魔術”を手に竜骨大墳墓へ向かう。
それは魔力の代わりに「記憶・感情・時間」を代償にする、忘却の魔法。
失われた娘を救うたびに、彼は“父であった記憶”を失っていく。
そして最深部で再会したとき、
グレンはすでに彼女を思い出せなくなっていた。
「……君は、誰だ」
救えたはずの娘は泣き、
忘れてしまった父はただ手を伸ばす。
これは、
記憶を代償にしてでも家族を救おうとした男と、
忘れられてもなお父を選び続けた少女の物語。
失われたものは戻らない。
それでも――体だけは、覚えている。