あらすじ
婚約者を妹に奪われた。
それだけではない。
侯爵家を支えてきた帳面仕事も、冬支度の手配も、屋敷を回してきた功績さえ、すべて妹のものにされた。
「君なら分かってくれると思った」
元婚約者はそう言って妹を選び、父はエレノアに命じる。
「最後くらい役に立ってみせろ」
厄介払いのように嫁がされた先は、嫁げば死ぬと噂される北辺公爵家。
夫となったヴィクトル・ノルデンフェルトは、血塗れ公爵と恐れられる冷たい男だった。
「私はお前を愛さない」
初対面でそう告げられ、屋敷の使用人たちにも歓迎されないエレノア。
王都で悪評を流された、婚約者に捨てられた傷物の令嬢。
北辺に居場所など、あるはずがない。
それでもエレノアは、凍える洗い場に火を残し、乱れた薬草庫を整え、誰も気づかなかった屋敷の綻びを拾っていく。
そして吹雪の夜。
倒れたメイド長を救うため、エレノアは命をかけて雪の中へ踏み出した。
「あなたのためではありません。助けられると分かっていて見捨てたら、私はきっと、私を許せない」
その時、冷酷だった公爵は初めて彼女を見る。
愛さないはずだった。
信じるつもりもなかった。
けれどヴィクトルは、彼女の言葉を聞き、彼女の判断を通し、やがて王都で告げる。
「名を呼ぶな。私の妻だ」
奪われた婚約。
奪われた功績。
奪われかけた母の形見。
もう、黙って譲ったりはしない。