あらすじ
宇治川ラインで軽貨物が崖下へ転落し、配送ドライバー・名倉隆が死亡した。
荒い運転で有名だった男の、ありがちな事故死――そう思われた。
だが捜査一課の刑事・宇賀田桔平は、名倉の死に顔に“事故では済まない熱”を見つける。
検視の追加所見。車内に残された古い事故記事。削除されてもなお残り続けるコメント欄の悪意。
そして浮かび上がる、一人の遺族の名前。
母の事故死。父の介護。続く喪失。
その上から、匿名の誰かが何年にもわたって傷口を刺し続けていたとしたら――。
見えない場所から人を傷つけていた男が、今度は見えない悪意に追われて死んだ。
だが、どれほど胸糞悪い相手でも、殺していい理由にはならない。
ネットの誹謗中傷と現実の殺意がつながる時、
桔平たちは“コメント欄の亡霊”の正体を追う。
登場人物紹介
宇賀田桔平
京都府警捜査一課の警部補。
面倒くさがりで軽口ばかり叩く、女好きの不良刑事。死体も幽霊も苦手。
それでも、死んだ人間を雑に扱うことだけは許せない。
嫌な奴にも最低限の線を引く、その不器用な倫理観が彼の武器。
本作では、“ただの事故死ではない顔”を最初に見抜く。
大月神楽
桔平の直属の上司であり、幼馴染。
冷静、有能、理詰め、丁寧口調のまま相手を追い詰める女警部。
感情を表に出さず、どんな時でも「事実」と「線引き」を見失わない。
だが本作では、事故遺族の話に触れた時だけ、いつもより少しだけ声が固くなる。
桔平にとって一番逃げにくい相手。
高梨未央
ウェブニュース記者。
明るく軽いが、現場の空気、SNS、動画、コメント欄の悪意を拾う嗅覚は鋭い。
「見えない加害」を形にするのがうまい女。
本作では、削除されたはずのコメントや匿名掲示板の痕跡を辿り、事件の“見えない凶器”を掘り起こしていく。
名倉隆
軽貨物の配送請負ドライバー。
煽り運転、幅寄せ、急停車、責任逃れ。外面は取り繕えるが、弱い相手には執拗に嫌味を刺す小物。
ネット上でも、事故遺族や弱った人間をじわじわ傷つけるコメントを書き続けていた疑いがある。
被害者であると同時に、長く誰かを傷つけてきた加害者でもある男。
藤代航太
三年前の事故で母を亡くし、その後は認知症の父を介護しながら暮らしてきた青年。
周囲の評判は良く、真面目で穏やか。
だが、家族の死と介護の重さの上に、匿名の悪意が何年も積み重なっていた。
本作で最も“同情したくなる”人物であり、同時に最も危うい存在。