あらすじ
名前は音無透。読み方は「おとなし・とおる」。
陰キャのための名前を、生まれながらに二つも持つ男。
大阪・池田市在住、トランペット歴六年、友人ゼロ。
この春から、"青春するならここ"と噂される桜塚高校に入学した。
入学式の帰り道、電車のホームで声をかけてきた女子がいた。
石山奈央。箕面から通うトロンボーン少女。
背が高くて、予測不能で、本をよく読んで、たまに泣く。
なぜか、毎日一緒に帰るようになった。
吹奏楽部では音で話せた。言葉じゃなくても、届いた。
梅田でからあげを食べ、プリクラを撮り、パンケーキで締めた土曜日があった。
クラスでは地味でも、部活だけは生きていられた。
それだけで十分だと、思っていた。
──高校二年生のクリスマス。悪夢のような二週間。
奈央の「本音ノート」を、どうしても読みたかった。
ただそれだけのことが、すべてを終わらせた。
十年後。明日は結婚式。
奈央とじゃない、誰かとの。
あの冬に戻れたなら、と今もまだ、思い続けている。
陰キャは青春に向いていない。
でも向いていないから、深く刻まれた。
後悔の純度が、高すぎた。