あらすじ
1869年5月、箱館・五稜郭陥落。
それは旧幕府の終焉ではなく、人類の終わりの始まりだった。
長らく南山国立図書館の地下アーカイブに封印されていた「レベル4機密指定解除資料」がここに公開される。
フランス式要塞「五稜郭」。その真の目的は、箱館湾の暗い水底に微睡む太古の邪神を封じ込める巨大な「五芒星(ペンタグラム)」であった。しかし、新政府軍の無慈悲な艦砲射撃が土塁を吹き飛ばし、星の幾何学的な完全性が崩壊した瞬間、最悪の蓋は開かれた。
濃霧と共に海から這い上がってきたのは、銃弾を弾き返し、人間の正気を奪う深海の眷属。
官軍も賊軍もなく、あらゆる人間が屠殺されていく狂乱の戦場において、ただ一人、決して折れない男がいた。
新選組副長・土方歳三である。
彼は狂気を吸い込む隕鉄の魔剣「和泉守兼定」を抜き放ち、名もなき機関士たちと共に、岸壁に残された蒸気機関車のボイラーを限界まで焚き上げる。太古の呪いに対し、人類が突きつけたのは、産業革命の結晶たる蒸気と鋼鉄、そしてガトリング砲の圧倒的な暴力だった。
南山文理大学の形而史学者・櫻井教授が乾いた筆致で解き明かす、歴史の闇に葬られた凄惨な撤退戦。
これは、星が正しい位置に戻るその日まで、自らの命と鉄を以て「世界の蓋」となり続けた者たちの血塗られた記録である。