あらすじ
作品説明
母を亡くした美咲のスマホには、毎年届いていた桜の写真が、今年だけ届かなかった。
遺品整理で見つけたのは、母が記録していた「桜のノート」と、投函されなかった何通もの手紙。
最後の封筒に残されていた言葉は、
「桜前線の終点で」。
母が本当に伝えたかったことを知るため、美咲は北海道の小さな町へ向かう。
世間の春が終わったころ、北の町で遅れて咲く桜の下、美咲は母の最後の言葉と向き合う。
これは、既読だけで終わらせてしまった母への返事を、ようやく書きはじめる物語。
あらすじ
東京で働く四十二歳の美咲には、毎年春になると母から桜の写真が届いていた。添えられる言葉はいつも同じ。「今年も桜前線が来たよ」。美咲はそのたびに「きれいだね」と短く返すだけで、母との会話を後回しにしてきた。
しかし母が亡くなった年、桜の季節になっても写真は届かない。遺品整理のため実家へ戻った美咲は、母が毎年、桜の開花日や美咲への思いを記録していたノートを見つける。さらに、投函されなかった手紙の束も残されていた。そこには、東京へ出る美咲を責めたこと、結婚を急かしたこと、弱音を受け止められなかったことへの後悔が綴られていた。
そして最後に残された空の封筒には、「桜前線の終点で」とだけ書かれていた。母の本心を知るため、美咲は母の故郷である北海道の小さな町へ向かう。そこで母の古い知人・佐伯から、母が生前預けていた最後の手紙を受け取る。
北の町で遅れて咲く桜の下、美咲が知ったのは、母の謝罪だけではなかった。母は美咲を責めていなかった。返事が一行でも、帰ってこられなくても、遠くで生きる娘をずっと誇りに思っていた。
「人の春も、桜前線のように、それぞれの速度で来る」
母の最後の言葉に、美咲はようやく自分を許しはじめる。母のいない春を、自分の春へ変えていくために。