あらすじ
兄の死は、事故のはずだった。
崩落した現場で、彼は確かに手を伸ばしていた。――助けるために。
それなのに、なぜかその記憶だけが、曖昧に途切れている。
春は、もう終わっているはずだった。
それでも桜は咲いていた。
花びらの中心に現れたのは、“聖女”と呼ばれる女――御影雪乃。
彼女はただ微笑み、こう言う。
「ずっと、ひとりで持っていたんですね」
触れられた瞬間、胸の奥に沈んでいた何かがほどけていく。
罪も、後悔も、すべてが軽くなっていくような錯覚。
だが――
「信じないで」
割り込んできた女は告げる。
その救いは本物ではないと。
“聖女”は何も消さない。ただ、消えたように見せるだけだと。
やがて明らかになる、異様な仕組み。
人の罪を引き受けるように見える存在。
そして、兄の死に隠された違和感。
桜前線は北へと進む。
止まることなく、人の心をなぞるように。
救われたいと願ったその瞬間から、
すべては静かに壊れ始めていた。
――桜は、ただ映しているだけだ。
消えないものを、美しく見せながら。