あらすじ
【物語紹介】聖骸(せいがい)のシンフォニー
「死にたくない、おれは――人間だ」
西暦33年、エルサレム。
ゴルゴダの丘で十字架に打ち付けられたイエス・キリストは、聖書に記されたような崇高な最期を遂げたわけではなかった。
内臓を蝕む急性腎不全の激痛、泥を舐める屈辱、そして自分を見捨てた父なる神と、自分を嘲笑う群衆への底なしの憎悪。
死の淵で彼が放ったのは、愛ではなく呪詛だった。
その呪いと、我が子への狂気的な執着を抱く母マリアの願いが混ざり合った時、禁忌の「受肉」が始まる。マリアの胎内へと逆流し、彼女の肉を喰らうことで、キリストはその意識を母の肉体へと簒奪した。
数日後、洞窟から現れたのは、若き日の輝きを宿した聖母マリア。
だが、その背中には、血に濡れた肉の十字架が四本の腕となって羽ばたき、その瞳には慈悲の欠片もない。
「救いが欲しいか? ならば、おれと同じ地獄をみよ」
聖母の皮を被った復讐者(キリスト)は、自分を殺した世界を「清算」するため、聖骸の行進を開始する。
彼が指先で触れるたび、人々はかつての主が味わった「生理的な崩壊」の呪いに転げ回る。
これは、神の子が「人間」として地獄を這い、聖母が「怪物」として愛を完遂する、最も美しく、最も残酷な暗黒聖書(ノワール・バイブル)。