あらすじ
『_そうしてお姫様は悪い魔物を退治してみんなに愛されながら過ごしましたとさ。』
つんと鼻につく薬品のにおいが充満する白い部屋の中で、定期的に音を鳴らす機械からのびる管に繋がるのは16歳の女の子。
彼女は角が潰れかけている絵本を大事そうに胸に抱え窓の外を見た。
『やっぱいいなぁ、星のおひめさま。』
女の子がうっとり呟く言葉に、聞き飽きたなんてあきれたような表情を浮かべた両親は顔を見合わせて笑った。
「それ、本当に好きだよな。」
『うん!お姫様はお姫様でも守られるばっかりじゃなくて守るために戦う勇敢さも持つかわいくてかっこいいお姫様。私もいつか...誰かを守る側になりたいな。』
静まり返った部屋にハッとした女の子は無理して笑って両親に笑顔を見せた。
そんな女の子の心中を察しながらも深くは入り込まず、ただそばに寄り添った両親。
そんな幸せな家族についに訪れたあまりにも早すぎる別れの日。
慌ただしく部屋を出入りする医者や看護師を弱い呼吸をしながら目で追う女の子。
その奥には父親が目に涙をためながら泣きじゃくる母親を抱きしめていた。
『…もぅ、だめ、かぁ。』
想像していたこの時より意外と心は穏やかな女の子は最後に両親に笑いかけた。
両親に感謝を伝えたい、最期のわがままに医者は力なく笑って頷いた。
涙を流しながら、生き絶え絶えに伝えた感謝の言葉に両親は泣きながら受け取った。
その様子を見て満足そうに笑った女の子はその数時間後、静かに人生の幕を下ろした。
長い長い瞬きをしたような気がした。
瞼をあげて入り込んできた景色はあまりにも煌びやかな空間で、知り合いひとりいない場所だった。
ふわりと浮遊感を感じて視界を下に下げると西端な顔立ちをした男の子に抱きかかえられていた。
『お誕生日おめでとう、可愛いリリィ。』
その瞬間、女の子の頭に流れ込んできた大量の記憶。
それは憧れていた絵本の中のお姫様、【星のおひめさま】の記憶だった。
闘病生活の末、人生の幕を下ろした私の次の人生はまさか憧れていた絵本の世界で始まったのだ。