あらすじ
婚約破棄を機に人生を立て直そうとする伯爵令嬢リシェル・フォルナーは王立図書館の司書見習いとして採用される。配属先は禁書や古い魔導書を保管する閉架書庫。リシェルには本に残った感情の痕跡を読み取る力があり、その資質を買われての配属だった。厳格な先輩司書ミレイユのもとで台帳管理や封印確認を学び始めたリシェルは、初日から特定の魔導書の封印だけが異常に劣化していることに気づく。そこへ現れたのが、王宮近衛騎士ゼノ・アルヴェインだった。無愛想で言葉少ななゼノは魔導書絡みの事件を担当する騎士でありリシェルの感覚を危険視しながらも、その能力を認めて調査に加える。
点検を進めるうち、閉架書庫では目録の紛失、台帳の改竄、出入り記録の空白が次々に見つかる。失われた記録は、三十年前に起きた禁書暴走事件と、百三十七番から百四十二番までの五冊の本に集中していた。リシェルは、地道な照合と本に残る気配を頼りに、消された記録の痕跡を追う。ゼノは彼女を守ろうとするあまり情報を伏せるが、リシェルは「知らない方が危ない」と告げ、守られるだけでなく共に調べる立場を選ぶ。二人は衝突しながらも、互いの判断を信じるようになっていく。
やがて王宮側の記録保管庫との照合により、三十年前の事件の背後に王位継承に関わる秘密があったことが判明する。当時、王家の記録から意図的に消された継承者が存在し、その記録を守ろうとした旧アルヴェイン家が禁書事件に巻き込まれていたのだ。さらに、ゼノ自身も幼いころに事件現場にいて、禁書に触れた影響で過去の記憶を失っていた可能性が浮かぶ。自分が何者なのか揺れるゼノに、リシェルは過去が何であっても彼の現在までの選択は変わらないと告げる。
一方、王宮魔導顧問補佐ルシアン・グレイヴは、穏やかな態度でリシェルに近づき、記録は王宮が「管理」すべきだと主張する。だが彼の目的は、封鎖区画に残る改竄前の記録を隠し、消された継承者の情報を本人にも知らせず支配し続けることだった。リシェルは記録を隠すことは守ることではないと反論し、司書として、消されたものを確認できる形で残すべきだと訴える。
三十年前の書記官ライナ・ヴェルトの覚え書きが見つかる。そこには、禁書暴走が意図的に起こされ、消された記録を守ろうとした者たちがいたこと、そして事件の中で保護されながらも過去を封じられた子どもがいたことが記されていた。リシェルとゼノは、その記録をもとに、王宮が隠してきた真実を復元していく。
事件後、ルシアンへの調査は続き、王宮と図書館は封鎖区画の記録復元を合同で進めることになる。リシェルは正式な司書として採用され、復元作業の担当者に選ばれる。婚約破棄で居場所を失った彼女は、閉架書庫で「記録を守る」仕事を見つけた。ゼノも、失われた過去を一つずつ確かめていく道を選ぶ。二人は、消された記録を未来へ残すため、再び閉架書庫の扉を開く。