あらすじ

大学生の梓川未来は、祖母が営む離島の喫茶店を手伝うため、幼少期を過ごした夏凪島へと戻ってきた。しかし彼の記憶には、この島で「何があったか」という肝心な部分が、まるでページをカッターで切り取ったようにすっぽりと欠け落ちていた。 開店初日。理屈っぽく、感情に蓋をすることが癖になった未来の前に、赤い長髪の少女が現れる。名前は白部百合。彼女はなぜか未来の名前を知っており、誰にも話していないはずの予定を言い当て、そして——初対面のはずの未来に向かって、「久しぶり」と微笑んだ。 彼女は何者なのか。なぜ俺を知っているのか。 答えを求めるたびに、未来の足元の「現実」は音を立てて崩れていく。母が遺した未完成の絵が動き、手紙の文字が増殖し、指先には行ったはずのない水底の砂がこびりつく。 やがて未来は気づく。自分が逃げ続けてきた「過去」の奥底に、ひどく重くて、ひどく冷たい、取り返しのつかない真実が沈んでいることに。 記憶とは何か。存在とは何か。そして——作られた感情は、本物になり得るのか。 夏草薫る孤島の喫茶店で、二人の時間は、静かに、確実に、終わりへと向かっていく。

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カクヨム
カクヨム2026/04/25
  • 現在の作品夏草薫る離島の喫茶店 ―記憶に咲く百合―