あらすじ
魔力を持たない医者・ライ・クロードは、辺境の街ヴァルタで「黒鍵堂」という看板一つの診療所を営んでいる。
治癒魔法が届かない領域——慢性的な魔力枯渇、依存、汚染、変質。そういった患者だけが、口コミで黒鍵堂にたどり着く。
ある日、「軽い倦怠感です」と言って魔法騎士団員のミラ・エルセンが初診に来る。ライの問診は十分もかからずに核心に触れた。三年分の蓄積を、彼女は「軽い」と言って持ってきていた。
魔力を持たないがゆえに干渉しない手。身分も容姿も魔法の強さも関係なく患者を診る目。「嘘はつきません」という一言。
ライはミラを「根本原因がまだ出ていない患者」として追っている。ミラだけが、少しずつ崩れていく。
診察室に来る者はそれぞれ病を抱えている。街の少女は兄の依存を、王都の記録官は自分の汚染を、それぞれ一人で抱えてきた。
黒鍵堂は広告を出さない。それでも人が来るのは、ここでしか「ちゃんと診てもらえない」からだ。