あらすじ

二〇三二年、一人の天文学者が気づいた。  月が、あるべき位置にいない。  三十八万キロの彼方で、爪が伸びる程度の距離だけ——しかし確実に。  十年前、ある実験が失敗した。消えるはずだった微小ブラックホールが消えなかった。計算を誤った物理学者は島に隠れ、実験を隠蔽した管理官は国境を越えて逃げた。そして発見者である天文学者は、沈黙と引き換えに、データを見続けることを選んだ。  月は歪んでいく。  津波が沿岸を襲う。  バンコクの縫製工場で、一人の班長が部下を屋上に逃がす。  十六人のうち、十五人を助けた。  一人だけ、助けられなかった。  告白しても月は元に戻らない。  出頭しても死者は生き返らない。  宇宙は人間の後悔に、一切応答しない。  それでも——歪んだ月の下で、四つの人生が交差する。

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カクヨム
カクヨム2026/04/24
  • 現在の作品【SF短編小説】月を壊した女と、月を見ていた女 ~三十八万キロの沈黙~