あらすじ
十年間、夫の帰りを待ち続けた。「魔王討伐の遠征」――その言葉を信じ、宮廷薬師イルゼ・ファーレンは夫の留守を守りながら薬草園を育て、王宮の薬務を一手に担ってきた。
ところが遠征から凱旋した夫ギルベルトの傍らには、見知らぬ女性と幼い子どもがいた。「向こうで正式に婚姻した」と告げる夫に、イルゼの十年は一瞬で崩れ落ちる。
悲嘆に暮れる暇はない。離縁には王宮の法務官の裁定が必要であり、そこに立ちはだかるのは夫を英雄として庇護する宮廷の権力構造だった。味方は、法務官補佐の青年ノーラン・ヴィスただひとり。口数少なく、けれど誰より正確に法の抜け道を知る彼が、イルゼの隣に立つ。
薬師としての知識と観察眼を武器に、イルゼは夫の「遠征」の真実を一つずつ暴いてゆく。遠征費の流れ、届かなかった手紙、偽造された報告書。そして、宮廷の薬草利権に絡む巨大な不正が、夫の嘘の裏に隠されていることに気づく。