あらすじ
子爵家の娘エルーダ・ノアトリスは、音楽家一族の"耳のいい"令嬢。十六で嫁いだ夫ラディアンは、二流作曲家だった。
ある夜、夫は歌姫を屋敷に連れ込み、書きかけの楽譜を暖炉に投げ込んだ。
「君の地味な音は時代遅れだ。離縁しよう」
エルーダは頷いた。
灰の中から半分だけ焦げた譜面を拾う。それは夫が三年で盗んできた全てのコピー。原本は、王室楽長オリヴァン・フェインの書庫に──彼女の手で、三年前から毎週届けられていた。
三ヶ月後、国王即位式。
彼女は夫が一度も聴いたことのない交響曲を、自分の名で初演する。