あらすじ
国分寺には、地図に載らない時間帯がある。
終電のあと、街が少しだけ裏返るときに現れる場所――裏国分寺。
影人、精霊、ミュータント、迷い人。
名前を失くした存在たちは、この街の路地や駅に流れ着き、
「どうすればよかったのか分からないままの悩み」を抱えて立ち止まっている。
りゃんシーは、香草庵という小さな場所で処方を行う。
それは薬でも、魔法でも、正解でもない。
蒸留された霧、瓶に詰めた煙、靴下や香草、触れるだけの手技。
処方はときに効き、ときに効かず、ときに事態を悪化させる。
この街では、すべてが解決されるわけではない。
ありがとうと言われない夜もある。
処方を拒むことも、失敗することも、代償を払うこともある。
それでもりゃんシーは、問いを急がない。
治すためでも、正すためでもなく、
「まだ消えていない」と示すために処方を置いていく。
『裏国分寺処方録』は、
救済譚でも、成長譚でもない。
誰にも回収されなかった感情と、
名前を持たない選択肢の記録である。