あらすじ
二十年近く実家へ帰っていない男は、ある夜、不思議な夢を見る。
呼吸器疾患を抱える彼にとって、ヘビースモーカーで酒に溺れる父と、支配的な母のいる実家は、心身ともに近づけない場所だった。父は事故と老いによって施設へ入り、母とも疎遠になった今、故郷は遠い過去となっている。
しかし夢の中で彼は、ノートPCを抱え、なぜか実家で仕事をしていた。
飴色に輝く大きな家。懐かしい庭。幼い頃に遊んだ風景。
そして現実とは似ても似つかない、穏やかで威厳のある父。
失われたはずの“好きだった故郷”を辿るように歩く彼は、やがて近所のどぶ川が、土砂とゴミと悪臭に埋もれていることに気づく。その淀みの奥には、白いしゃれこうべが覗いていた。
幼少期の記憶と、長年積み重なった家族の傷。
夢と現実、愛着と拒絶、その狭間で、男は静かに「帰る」ことを選ぶ。
これは、意識と無意識の境界線で見た、一夜の帰郷の物語。