あらすじ
我々の住む地球、銀河、宇宙の、さらにその外側。 球体状の宇宙空間が、闇に無数に浮かんでいる。 そのひとつに頬を寄せていた何かが、ある日ふと、夢の中でわずかに身を返した。
――ただ、それだけのことだった。
それから七年が過ぎる。
空はあいかわらず青く、子どもたちはランドセルを背負って学校へ向かい、駅前では誰かが信号を待っている。世界は何ひとつ変わっていないように見える。
けれど、ほころびはある。
口に出した言葉が、一瞬だけ目の前に形を持つ。
夢で見た顔と、駅の改札ですれ違う。
そんな日常の異変に、人々は少しずつ気づきはじめていた。
声を奪われた女が、失った恋人の名前を指でなぞる。
くたびれた青年が、自分の内側で目を覚ました獣を満員電車の窓に映す。
戦火の修道女が、祈りの言葉ひとつで街を焼いた。
並行世界のどこかでは、すべてを欲した少女が、こちらの自分にそっと手を伸ばしている。
ほころびの向こうで、それぞれが夢を見はじめている。
それは夜明けの予兆か、終わりの足音か――まだ誰にもわからない。