あらすじ
世界が異世界転移を「既知の現象」として認定してから十五年。総務省の外局・異世界帰還者支援局(通称「帰還局」)の窓口係として働く霧島奈々、二十六歳。
今日も窓口には、いろんな人がやってくる。
失踪宣告を取り消さなければならない元・勇者。住民税の仕組みがわからない元・魔王。保証人欄を埋められない元・魔王国の随伴帰還者。師匠とはぐれたまま日本に来た異世界出身の少女。三度目の帰還でも書類に慣れないリピーター——。
誰が来ても、対応は変わらない。書類を並べて、話を聞いて、次の一歩を一緒に踏み出す。それが奈々の仕事だ。
ただ、奈々には誰にも言えない理由がある。
七年前に転移したまま帰ってこない姉・咲々を待つために、この窓口に立っている。
そこへ一人の元・勇者が現れる。天宮颯斗、二十三歳。七年間向こうで戦い続け、やっと帰ってきた青年。そして彼は——向こうで咲々と会っていた。
彼が運んできたのは、言葉だけではなかった。姉が三年かけて書き続けた研究ノートと一通の手紙。そこには、誰も知らない仮説が記されていた。
転移は、偶然ではない。誰かが、意図的に人を「向こう」へ送っている。
姉を帰すために。真実を知るために。そして今日も目の前にいる帰還者のために——窓口係は静かに、記録を始める。