あらすじ
「リディア! お前との婚約を破棄する!」
卒業舞踏会の夜、王太子エドワルドは大勢の前で高らかに宣言した。
隣には聖女アリシア。
理由は、「陰気だから」。
侯爵令嬢リディア・フォン・グレイシュは、静かに一礼して答えた。
「承知しました。では本日をもって、王城の呪術管理業務を終了します」
誰も知らなかった。
この黒髪の無表情な令嬢が、七年間毎日、王城地下の封印を点検し、呪物を管理し、悪霊を除去し続けていたことを。
陰気なのは性格ではない。
膨大な呪いを一人で浴び続けた結果、感情が削れてしまっていたのだ。
誰にも告げずに、ただ黙って、この王国を支え続けていた。
そしてリディアが仕事を辞めた翌夜から、王城に異変が起きる。
鏡に女が映る。
髪が抜ける。
廊下に足音がする。
肖像画の目が動く。
聖女が金縛りにあう。
ネズミが人語を喋る。
リディアは関係ない。
彼女はすでに辺境で「呪い相談所」を開業し、大繁盛している。
王城が崩れかけてようやく宰相が泣きつくが、
「今は予約が埋まっておりますので」
と即答するリディア。
実は王国そのものが呪われていた。
腐敗した王族と貴族への、民の怨念が何十年も蓄積していたのだ。
それを一人の令嬢が、婚約という名の鎖に繋がれたまま、ずっと抑え込んでいた。
辺境では、怪異に動じない無骨な騎士団長ヴァルツと出会う。
幽霊が出ても全く気付かないこの男の傍にいると、なぜか呪いが薄く感じられる。
感情が削れたリディアが、初めて「この人といると楽だ」と思える相手だった。
婚約破棄、ざまぁ、怪異、そして少しの恋。
主人公は別に復讐などしていない。
ただ仕事を辞めただけで、王国が勝手に崩れていく物語。
「戻ってきてくれ……!」
「嫌です」
即答です。