あらすじ
夕暮れのスーパーで、
値引きシールの貼られた小松菜を選ぶ。
誰にも褒められない指先で、
豆腐を切り、
味噌を溶き、
明日のために米を研ぐ。
それを彼は、
「地味だ」と笑った。
画面の向こうでは、
光るネイル、
高級ホテル、
薄いグラスの泡。
“映え”だけを食べて生きる人たち。
フォロワー三十万人。
数字は拍手の代わり。
中身のない言葉でも、
綺麗に加工すれば「成功者」になれた。
わたしの企画。
わたしの時間。
わたしの努力。
わたしの静かな夜。
全部、
あなたの「才能」になっていた。
でもね。
本当に人を支えるのは、
映る料理じゃない。
安い鶏むね肉でも、
炊きたてのご飯でも、
疲れた夜の味噌汁でも、
ちゃんと誰かを生かせる。
生活は、嘘をつかない。
あなたは最後まで、
「見せること」しか知らなかった。
冷蔵庫を空っぽにしたまま、
人生まで空っぽにした。
炎上の光に焼かれて、
拍手は罵声へ変わる。
フォロワーが減る音。
ブランドが離れる音。
虚像が崩れる音。
その全部を聞きながら、
わたしは静かに帰宅する。
鍋の蓋を開ける。
湯気が立つ。
ただそれだけで、
少し泣きそうになる。
“本当の価値”は、
誰かに見せるためじゃなく、
明日もちゃんと、
生きていくためにあるのだから。