あらすじ
東京の夜は、海に似ている。
駅の明かりは灯台のように白く、
濡れた路面は水面のように光り、
人の流れは潮のように絶えず動いている。
朝倉祐は、ただ帰るはずだった。
レイナは、白い観測室で都市の流れを見ているだけだった。
ミナは、渋谷の夜の現場を軽口で泳いでいた。
けれど、その夜、航路が少しだけずれる。
普段は降りない駅。
明かりの届かない路地。
搬入口に残された欠けた月。
届かない返事。
流れから抜けた人。
都市は叫ばない。
怪物のように現れもしない。
ただ、帰れるはずの道を、静かに別の航路へ変えていく。
観測する者。
拾う者。
流される者。
東京の夜に押し出された人たちは、それぞれの場所から同じ暗い航海へ近づいていく。
これは、帰れるはずだった日常から外れた人たちが、名前、身体、居場所を失いながら、それでも誰かの声を頼りに夜を渡ろうとする物語。