あらすじ
プロローグ
溺愛の系譜 ――砂糖みたいな言葉で育った俺たちは
学園の朝は、いつも少し騒がしい。
剣がぶつかる乾いた音。
訓練場に響く掛け声。
そして、その中心に立つ二人の姿。
「――レン、右!」
「分かってる!」
声を掛け合うのは、まるで呼吸のように自然だった。
レンとスコールは並んで剣を構え、同時に踏み込む。
連携は完璧。
互いの癖も、次に出る動きも、考える前に身体が知っている。
それもそのはずだった。
二人は、物心つく前から一緒だった。
同じ家で育ち、同じ大人たちに見守られ、同じ「溺愛」を浴びてきた。
剣を収めたレンが、無意識にスコールの襟元を整える。
ほんの一瞬、指先が触れただけなのに、スコールは小さく肩を跳ねさせた。
「……何?」
「曲がってた」
「それ、さっきも直した」
「また曲がった」
ぶっきらぼうな会話。
けれど距離は近く、近すぎて、周囲の生徒たちはときどき視線を逸らす。
――仲がいい、という言葉では足りない。
二人の両親は、学園でも知らない者はいない存在だった。
王立騎士団の英雄と、研究魔術師の天才たち。
そして何より、有名なのは――
「……今日も来てるな」
訓練場の外で、腕を組みながらこちらを見ている二組の大人たち。
「目、合ったら終わりだな」
「うん。絶対なんか言われる」
案の定。
「レン! 剣の握り、今の少し甘かったぞ!」
「スコール! 疲れてないか!? 無理してないか!?」
「……まだ一時間もやってないんだけど」
レンが小さく呟くと、スコールは苦笑した。
――こうして、適度に邪魔されながら育った。
甘い言葉を交わす大人たちを見て、
抱き合う背中を見て、
それが「当たり前」だと思いながら。
だから二人はまだ知らない。
この距離が、
この視線が、
この鼓動の速さが――
すでに「恋」の入り口に立っていることを。
砂糖みたいな言葉で育った俺たちは、
きっと同じやり方で、
同じ熱で、
誰かを好きになる。
それが、
すぐ隣にいる相手だということに、
まだ気づかないまま。