あらすじ
王都の片隅に佇む、偏屈な老人が営む仕立て屋『針の目』。そこで働く少年アルトは、攻撃魔法も治癒魔法も使えない、指先が不気味な銀色に染まっただけの落ちこぼれ見習い職人だった。しかし彼には、魔導糸を通じて布地の「呼吸」を読み、その繊維を緻密に編み上げる異能とも言える職人技が備わっていた。
ある黄昏時、国を揺るがすクーデターによってすべてを失い、血と煤に塗れた第一王女エルが店へと逃げ込んでくる。執拗な追手が迫る中、アルトは未完成の魔導衣『黄昏の外套』と自身の技術を駆使し、辛うじて彼女を隠し通すことに成功する。
ボロボロに引き裂かれたエルの心とドレスを目にしたアルトは、仕立て屋のプライドに懸け、わずか一時間で彼女のためだけの「旅装」を縫い上げることを決意する。アルトが紡ぐ銀の糸と、エルが秘める強大な魔力が交差したとき、ただのリネン布は宮廷魔導師をも圧倒する絶対の防護衣へと変貌を遂げる。
これは、世界を救う王女と、彼女の心を仕立て直した一人の少年職人が織りなす、一針から始まる異世界ファンタジー。