あらすじ
足利義政。
室町幕府第八代将軍。
後世には、応仁の乱を招いた「無責任な将軍」として語られる男。
目を覚ました俺は、その義政になっていた。
しかも、まもなく迎える妻は――日野富子。
のちに金と権力に執着した「稀代の悪女」と呼ばれる女だった。
だが婚礼の夜、俺は知る。
彼女は金を愛しているのではない。
銭の動きに映る、人の暮らしと世の機微を見つめているのだと。
――この人は、世が好きなのだ。
ならば、悪女などと呼ばせたくない。
彼女の才が歪められ、悪評へ変わっていく未来を止めたい。
関東ではすでに享徳の乱が燃え上がり、
やがて日本を裂く応仁の乱も近づいている。
将軍の座は重く、幕府の政は複雑で、
未来を知っているだけでは何一つ解決しない。
それでも俺は、逃げないことを選ぶ。
噂ではなく人を見て、歴史の分岐点へ踏み込んでいく。
これは、
悪女を更生させる物語ではない。
歴史が妻を悪女と呼ぶ前に守ろうとする夫の物語である。