あらすじ
【あらすじ】
遺書には、嘘の匂いが残っていた。
調香店「香庵」で働く柊香澄は、声の震え、しぐさの迷い、筆跡や筆圧ににじむ感情と執着を、匂いとして感じ取ってしまう。
恐怖は鉄錆。
嘘は、甘い腐敗臭。
悲しみは、ペトリコール。
調香店「香庵」で働く柊香澄は、声やしぐさ、紙に残る違和感を匂いとして感じ取ってしまう。
分かりすぎる嗅覚のせいで、香澄は誰とも深く関われずにいた。
ある日、香庵に電話をかけてきた折口敬三を訪ね、香澄は水無瀬時計塔へ向かう。
だが、時計塔の前管理人だった折口は、遺書を残して亡くなっていた。
自殺に見えたその死に、香澄は違和感を覚える。
遺書の匂いが、途中で変わっていた。
誰かが、死者の最後の言葉を書き換えている。
警察が事件性を測りかねる中、香澄は水無瀬時計塔の現在の管理人・氷室蓮と出会う。
感情の匂いがまったくしない、不思議な男。
香澄にとって蓮は、初めて匂いで読めない相手だった。
けれど蓮だけは、香澄の感覚を笑わない。
証拠ではなく、真実へ近づくための入口として扱ってくれる。
香澄は蓮とともに、塔ヶ崎で繰り返されてきた不可解な死と、消された遺書の謎を追い始める。
死者が本当に残したかった言葉。
生きている人を守るためにつかれた嘘。
そして、この街に隠された、死後の世界にまつわる記録。
死後の世界があるなら、なぜ私たちは生きているのか。
これは、奪われた最後の言葉を取り戻す物語。
そして、匂いで人を信じられなくなった調香師見習いが、匂いのしない男の言葉を信じていく物語。
香りで遺書の嘘を暴く、救いのある現代幻想ミステリー。
※第20話まで先行公開中です。
【主な登場人物】
柊 香澄(ひいらぎ かすみ)
調香店「香庵」で働く調香師見習い。声やしぐさ、紙に残る違和感を匂いとして感じ取る。人の本音に疲れながらも、奪われた最後の言葉を取り戻そうとする。
氷室 蓮(ひむろ れん)
水無瀬時計塔の現在の管理人。感情の匂いがしない、無気力で論理的な男。香澄の感覚を否定せず、真実へ近づくための入口として扱う。
折口 敬三(おりぐち けいぞう)
水無瀬時計塔の前管理人。香庵に電話をかけた翌朝、遺書を残して亡くなっているのが見つかる。
時雨 彼方(しぐれ かなた)
穏やかな微笑みを絶やさないフリー調香師。誰よりも優しく人に寄り添うが、その優しさには危うい静けさがある。
神楽坂 千歳(かぐらざか ちとせ)
香庵の主で、香澄の師匠。豪快で面倒見がよく、言葉よりもお茶と香りで人を支える大人。
鳴海 葵(なるみ あおい)
塔ヶ崎署の刑事。明るく聞き上手な現場主義者。香澄の感覚を、現実の捜査へつないでいく。
二階堂 鷹彦(にかいどう たかひこ)
塔ヶ崎署の署長。街の平穏を何より重んじる堅物。その沈黙の奥には、長年抱えた秘密がある。