あらすじ

1987年4月1日。 国鉄がJRになった日、俺は社会に出た。 黄色い総武線に揺られながら、房総の山奥から東京へ向かった。 初めて着たスーツの違和感。 惰性で入社した会社。 配属されたのは営業所だった。 待っていたのは、炭鉱の町にある飯場みたいな建物。 2トントラック。 段ボール。 手書き伝票。 渋滞。 終わらない業務。 朝早くから夜まで走り続ける、 ルートセールスという名の配達と営業。 木更津コースでは、何度も心が折れかけた。 それでも辞めなかった。 音しか鳴らないポケベルを腰にぶら下げ、 失敗して、怒られて、覚えていった。 やがて少しずつ、人との繋がりが増えていく。 「お客様は命の恩人」 そう教わった。 そして本当に、何度もそう感じる場面があった。 無茶ばかり言う得意先。 世話になった恩人。 かわいがってくれた上司や先輩。 俺は少しずつ、 “配達”から“セールスマン”になっていった。 ホテルの厨房。 料理人たち。 有名ホテル。 それまで知らなかった、 “プロの世界”を知っていく。 営業とは、商品を売ることじゃない。 人と人との信頼を積み重ねることだと知った。 だが、上へ行くほど仕事は重くなった。 結果を求められ、 理不尽に耐え、 いつしか、自分が何のために働いているのか分からなくなっていく。 認められたかった。 ただ、それだけだったのかもしれない。 積み上げたキャリア。 誇り。 肩書き。 それでも心は、少しずつ削れていった。 そして時は流れ、現在。 今でも、社会人としての根っこは、 この会社で培った経験と教えで出来ている。 違う道を歩んで20年。 ある日、一通の連絡が届く。 かつて自分を導いてくれた人の訃報だった。 あの日々は苦しかった。 でも、確かに生きていた。 これは、 特別な才能を持たない一人の男が、 昭和、平成、令和を泥臭く走り続けた記録。 そして―― ようやく、自分の人生を振り返る物語。

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カクヨム
カクヨム2026/05/14
  • 現在の作品あの日、俺は黄色い電車に乗って、社会に出た