あらすじ
香港の雨は肌にまとわり、冷えて骨まで染み渡る。タンロウのレンガの亀裂にはカビが潜み、華やかな繁栄の裏には、二千年も日の目を見ぬ陰謀が息づいている。
天外より降りし隕心銅で鋳造された「脳心儀(のうしんぎ)」は、魂を抜き取り、入れ替え、移し替えることを可能にする禁忌の神器である。神器は「本体」と「黄金の軸心」によって成り立ち、二つが合一してこそ神魂を安定させ、邪な力を抑えることができる。
二千年の昔、方士・徐福は永遠の生への渇望に惑わされ、上古の遺跡にて脳心儀の本体を発見した。だが神器にもう半分、黄金の軸心が存在することを知る由もなく、本体のみを携えて東へと渡り、逃亡を図った。
黄金の軸心による鎮魂と抑えの力を欠いたため、徐福は神器の力を制御することが叶わず、自らの魂は長きにわたり揺らぎ砕け、崩壊の瀬戸際に立たされていた。彼に残された唯一の活路は、脳心儀の力を借り、秦始皇帝が嬴氏の血脈に宿した完全な龍魂を抜き取り、己の身に移し替え、乗っ取って永遠の生を得ることだった。
始皇帝はこの謀を見抜き、三重の絶対局を布いた。逆龍印を刻み自らの残魂を血脈に封じ、五連の陶器を作り魂の器として偽り、白月化教を命じて世を隠し、代々嬴氏の末裔を守り続けさせた。
二千年の時が流れ、狩場は香港に定まった。上環の骨董商・秦陌は最後の純血を受け継ぎ、掌に刻まれた逆龍印が突如目覚める。傀儡に狩られ、邪気に纏われた彼は、ついに真実と向き合わねばならない。自身はただの獲物ではなく、徐福の魂奪いの儀式において、唯一代替の効かぬ魂の器に他ならないのだ。
雨の夜にうねる維多利ア港の暗い潮流の下、嬴氏の血脈、千年の神器、隠世の守護者と千年の反臣による、魂を賭けた究極の駆け引きが、今幕を開ける。