あらすじ

灰色の襟を 喉まで閉じて、 カトレアは今日も 「姉」であることを着ていた。 妹が笑えば譲った。 宝石も、ドレスも、居場所さえ。 家族間の資産移動は非課税―― そんな言葉で、 心の赤字をごまかしながら。 白い夜会場。 本来なら彼女が纏うはずだった 純白のドレスは、 妹の胸元で揺れていた。 婚約破棄。 その言葉を、 彼女は“ざまぁ”の始まりだと思った。 けれど響いたのは断罪ではなく、 ひとりの男の悲鳴だった。 > 「君は、自分を大事にしろ」 その瞬間、 壊れていた帳簿がめくれ落ちる。 尽くすこと。 譲ること。 耐えること。 それは本当に、 愛だったのだろうか。 深く頭を下げた床の向こう、 黒衣の男が笑った。 > 「拾おう。 > 君ほど美しい損益計算は見たことがない」 やがて彼女は知る。 ボルドーワイン色のドレスが、 誰かのためではなく、 “自分の肌”のために作られる歓びを。 深い谷間。 背を流れる黒髪。 絞られた腰。 それは媚びではない。 奪われ続けた人生を、 自分の身体へ取り戻すための戦装束だった。 請求書は積み上がる。 ドレス百二十四着。 宝飾十九点。 未払いの愛情、無断使用の青春。 妹は泣く。 けれどカトレアは、 初めて笑って言った。 > 「これは適正価格です」 数字は冷たい。 嘘をつかない。 だから彼女はようやく知った。 損をし続ける人生は、 美徳ではなく破綻だと。 最後に贈られたのは、 王冠でも、指輪でもない。 純金の算盤。 しゃらり、と鳴る音はまるで、 閉じていた心の鍵が開く音。 そして彼女は、 新しい人生の帳簿へ書き込む。 愛情収益―― 計測不能。

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小説を読もう2026/05/14
  • 現在の作品『そのドレス、私の私物ですが?』 ~完璧な会計令嬢は、婚約破棄の場で自分の「異常性」を突きつけられ、初めて正気(と恋)を知る~