あらすじ
新宿。
雨。
この街では時々、“生活”だけが取り残される。
誰もいない部屋で鳴り続ける炊飯器。
「お風呂が沸きました」と繰り返す給湯器。
昼のスーパーに流れる閉店BGM。
そして、人間の身体に貼られ始める「半額シール」。
それは、内閣府特例超常深層災害対策局――通称『深層局(アビス)』が追う、都市侵食現象《A.D.S.》。
人々の“生活の残響”が、現実を侵食し始める病だった。
久城蓮司は、ある雨の日、駅の忘れ物傘立てに残されていた黒い傘『宵待雨(ヨスガ)』を拾う。
その瞬間から彼は、
誰かの「終わらなかった生活」を視るようになる。
黄色く乾いた炊飯器の米。
飲み残しのペットボトル。
茶渋の残ったマグカップ。
返されなかった10円。
人は、綺麗に終わった瞬間に消える。
だから蓮司たちは、
終わるはずの生活に泥を塗る。
借りを返さず、
約束を先延ばしにし、
未読を残し、
茶渋を落とさず、
「今度ね」という言葉で、
世界の終了処理を食い止めながら。
これは、
怪物を倒す物語ではない。
「お揃いですか」と問いかける世界に対して、
「――まだです」
と答え続ける、
未完了者たちの生活終末譚。