あらすじ

恋人を事故で亡くした「私」は、春になっても蜜柑を買い続けていた。 冬の間、彼女は毎晩のように台所で蜜柑を剥き、静かに食べていたからだ。 爪が皮に沈む音。 果肉を噛む小さな音。 部屋に満ちる、甘く湿った柑橘の香り。 忘れられない記憶だけを残して、彼女は死んだ。 だが四月のある夜、暗い台所で再び“その音”が響く。 ――ぶつ。 ――くち。 そこにいたのは、死んだはずの恋人だった。 増え続ける蜜柑。 腐敗していく果実。 冷え切った部屋。 そして彼女は囁く。 「まだ冬でしょう?」 柑橘の香りに満ちた部屋で、男はやがて思い出す。 事故の瞬間、本当は誰が生き残るはずではなかったのかを。 静かな咀嚼音が耳に残る、冬の怪談。

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カクヨム
カクヨム2026/05/13
  • 現在の作品蜜柑