あらすじ
「アリシア・フォン・ドーレンとの婚約を、本日をもって解消する」
舞踏会の夜、王太子リュカ殿下は大勢の貴族が見守る中、婚約者である公爵令嬢アリシアに向かって宣言した。
理由は三つ。
「冷たい」「支えがない」「エレナの方が相応しい」。
三年間、誰にも言わず、名前も出さず、ただ誠実に働き続けてきたアリシアへの、あまりにも一方的な言葉だった。
しかしアリシアは泣かなかった。縋らなかった。
ただ静かに、四文字だけを口にした。
「承知しました」
——そして次の瞬間、会場を震撼させる宣言をする。
「では、"人生ログ"の公開を宣言いたします」
人生ログとは、王族・高位貴族の行動・発言・選択のすべてを記録する魔法システム。改ざん不可能、編集不可能、切り取り不可能——完全なる第三者視点の記録だ。
婚約破棄という重大契約の破棄により、アリシアにはその公開権が発生していた。
再生されたログが暴いたのは、深夜まで続いた政務補佐の記録、殿下の失言を幾度も救った場面、そして百二十七件にのぼる処理案件——しかしそのどれひとつも、アリシアの名義で記録されていなかった事実。
「彼女は何もしていない」という殿下の言葉は、ログの前で完全に崩れ落ちた。
さらに新ヒロイン・エレナの私室での会話まで記録は及び、「純粋な愛」の仮面も、静かに、しかし確実に剥がれていく。
「これは捏造だ!」と叫ぶ殿下に、監査役は淡々と告げる。
「ログは改ざん不可能です」
そしてアリシアは、最後にただ一言だけ言った。
「あなたは"言っていない"のではなく、"忘れていただけ"です」
主観ではなく、事実で。感情ではなく、記録で。
これは、ずっと見えていなかったものが、ようやく正しく見えた夜の物語。