あらすじ
ギャンブル依存症の女、恋をしてもやめられなかった
29歳の沙紀は、スーパーで働きながら静かに暮らしていた。恋人の大地は真面目で優しく、結婚も遠くないと思われていた。しかし沙紀には、誰にも言えない習慣があった。仕事帰りに立ち寄るパチンコ店だった。
最初はただの息抜きだった。幼い頃から家庭に居場所を感じられず、“何も考えなくていい時間”を求めていた沙紀にとって、店の光と音は現実を忘れられる場所だった。だが、ある日の大勝ちをきっかけに、彼女の生活は少しずつ崩れ始める。
「次こそ取り返せる」
そう思うたびに金は消え、借金は増えた。最初は数万円だったはずが、消費者金融、カードローン、恋人からの借金へと変わっていく。督促の電話が鳴るたびに心は削れ、それでも沙紀は店へ向かうことをやめられなかった。
大地は何度も支えようとした。しかし嘘は増え、約束は破られ、二人の関係も壊れていく。仕事でも居場所を失い始め、友人とも疎遠になった沙紀は、やがて完全に孤立していく。
それでも彼女は何度も「やめよう」とする。相談窓口を検索し、自助グループへ向かい、再発し、また後悔する。回復は一直線ではなく、何度も失敗を繰り返す苦しい日々だった。
季節が巡る中で、沙紀は少しずつ気づいていく。依存を消すことはできなくても、“戻らない日”を増やすことはできるのだと。
物語の終盤、彼女は再び店の前に立つ。中へ入れば楽になれる。全部を忘れられる。それでも沙紀は立ち止まり、小さく息を吐く。そして、誰にも気づかれないまま、その店の前を通り過ぎていく。
これは、人生を壊した女が「普通に生きること」を取り戻そうとする、静かで苦しい再生の物語。