あらすじ
恋人が死んで、三年が経った。
芹澤 海は、泣くことも笑うことも上手にできないまま、日常をこなしていた。
恋人だった白宮 月那の遺品が入った引き出しには、三年間触れていない。
触れたら何かが終わる気がして、触れないことで自分を守っていた。笑い方を忘れたわけじゃない。ただ、笑う理由が見つからないまま、三年が過ぎていた。
三周忌の翌日、死んだはずの月那から手紙が届く。
中には「宝さがし」の地図が入っていた。
二人で歩いた場所を巡り、封筒を見つけ、次のヒントへ向かう。月那が生前に仕掛けた、時限式の贈り物。
そして宝さがしを始めようとした海の背後に、月那が現れる。
「……あー、ちょっと待って。海くん、ストップ。一旦ストップ。そこ、スロー再生禁止ね」
三年ぶりの第一声がそれだった。帰ってきた理由を、月那はこともなげに言った。
天国の受付がブラック企業で、300年メンテナンス中だったから──それが口実になった、と。泣くより先に、海は呆れた。
川の土手、砂浜、馴染みの喫茶店、大学のゼミ室。月那が愛した場所を一つずつ訪ねながら、二人は歩く。
三年間、一人で来ることはなかった。来られなかった。匂いだけで、全部思い出すとわかっていたから。今日、その匂いを、月那と一緒に嗅いでいる。
封筒を書いて、防水加工して、各場所に埋めた。全部一人で、入院しながら。
見舞いに来た友人が泣きそうになっていても、月那は笑っていた。「大丈夫だよ」と言いながら、本の話をしていた。
知れば知るほど、月那が大きい。
笑いながら戦っていた人だったと、今日初めて知った。怖くても笑っていた。苦しくても軽口を叩いた。笑いながら核心を突いて、泣かせておいて笑わせてくる。
海の人生が感動とコメディの間を行き来するのは、月那という人間がそういう人間だったからだ。
言えなかった言葉が、三年越しに少しずつ解けていく。
三年間、誰かのペースに合わせる必要がなかった体が、覚えていた。隣に誰かがいるときの、自分の歩き方を。月那の気配が、左隣からついてくる。足音はない。草が踏まれる音もない。でも、ついてきている。月那の友人が月那を語る声を通して、海は知らなかった月那を知る。月那を愛した恩師の震える声が、月那の最期の戦い方を教えてくれる。
笑い続けていた月那が、ある夜だけ、声を震わせた。
「……怖かったよ。すごく、すごく怖かった。なんで私だけが、こんなに早く終わらなきゃいけないのって、夜中に何度も何度も泣いたよ」
宝さがしの終わりに、月那は言った。
「幸せになってほしい、じゃないよ。笑える場所を見つけてほしい」
これは、止まっていた時計に、電池が戻る数日の話。泣きながら笑える、そういう数日の話。