あらすじ
地味で目立たない女子高生・朝霧真昼(あさぎり まひる)は、クラスにも馴染めず、現実の自分にコンプレックスばかり抱えていた。
だからこそ、唯一の趣味であるVRゲーム《アーク・エリュシオン》の中では、“理想の自分”を徹底的に作り上げていた。
銀髪。長身。中性的な美貌。漆黒のコートに、脚線美を強調する装備。巨大な魔剣と、妙に露出の多いカスタム衣装。
――今思えば、性癖も願望も全部乗せだった。
そんなある日。授業中、突然クラス全体が謎の光に包まれる。
気づけば、クラスメイト全員が《アーク・エリュシオン》そっくりの異世界へ転移していた。
しかも全員、自分がゲームで使っていたアバターの姿になって。
当然、真昼も“理想の姿”へ変わっていたのだが――盛りすぎたせいで、誰にも本人だと気づかれなかった。
さらには、自分で設定した厨二病全開のボイスや装備のせいで、正体を名乗るに名乗れない。
そんな中、混乱する生徒たちを落ち着かせるため、担任教師による点呼が始まる。
真昼は焦っていた。
もし自分の名前を呼ばれたら、返事をするしかない。
しかし、この姿で「私です」と名乗れば、黒歴史ごと全て晒すことになる。
だが――。
朝霧真昼の名前に返事をしたのは、真昼ではなかった。
クラス全員が振り返る。
クラスの中から、小さく手を挙げた人物がいた。
黒髪。地味な顔立ち。見慣れた制服姿。目立たない雰囲気。
それは、現実世界そのままの“朝霧真昼”だった。
クラスメイトたちは何の疑問も抱かない。
当然だ。
そこにいるのは、“いつもの真昼”そのものだったから。
一方、本物の真昼は、教室の隅で息を呑む。
そして点呼は終わる。
二十八人の生徒と、一人の担任。
人数は合っている。
誰も違和感を抱かない。
ただ一人、“本物の朝霧真昼”だけを除いて。
理想の姿を手に入れたはずなのに、誰にも自分だと認識されない。
逆に、自分の本来の姿をした“誰か”が、自分として受け入れられている。
やがて真昼は気づき始める。
その偽物は、ただ姿を真似しているだけじゃない。
自分しか知らない癖。昔の記憶。ノートの字。好きだったもの。
まるで、本当に“朝霧真昼”そのもののように振る舞っている。
理想になったはずの少女は、自分の存在そのものを奪われたまま、影からクラスメイトたちを追い始める。
自分の姿を被った“何者か”の正体を暴き、
そして、この世界で“本当の自分”を取り戻すために。