あらすじ
希望の味、異国の地のルーツ
自分を定義づけていたものが突然消え去った時、男には何が残るのか?
彼は自分の人生を憎んではいなかった。負け犬でも、未来のない孤独な魂でもなかった。ただ、恐怖と習慣から、橋を架けるべきところに距離を置いて生きてきた人間だった。そしてついに、彼が心から無私の行動をとった時――トラックの前に飛び出し、弟を突き飛ばして救った時――宇宙は彼を別の場所へ送ることを決めたのだ。
ヴィーザルは、望みもしない世界で、生まれたばかりの赤ん坊の体で目を覚ます。30年分の記憶をそのままに持ち、彼にあるのはたった一つの確信だけだった。「元の世界へ帰りたい」と。
完璧な人生に戻りたいわけではない。理想の家族のもとへ帰りたいわけでもない。ただ、自分の人生に帰りたいだけだ。
しかし、「帰りたいという願い」と「実際に帰れること」の間にある道のりは、彼が予想していたよりも遥かに複雑だった。
ベラトリスは、生存の教義として実力主義の上に築かれた王国である。そこでは才能が傷跡の数で測られ、鋭い微笑みのもとで政治が弄ばれている。この舞台で、ヴィーザルは第二の人生を歩み始める。この世界の誰も完全に理解していない「優位性」を持って。彼は「物事の理(ことわり)」を理解していた。大地の化学。衝撃の物理学。そして、自然の摂理に逆らってでも成長を加速させることができる肉体の生物学を。
この世界の魔法は、知識、感情、そして蓄積された経験から生み出される。そしてヴィーザルは、その3つの要素をすでに30年分も持っていた。
彼に欠けているのは、他者を傷つける意志だ。そして、自分が何を、誰のために築き上げようとしているのかという確信もなかった。
この第1巻を通して、ヴィーザルは国境の村、衰退しつつある公国の回廊、そして出会うつもりもなかった人々との複雑な人間関係の中を立ち回っていく。
ナーリャ・フォン・ローテンシルト。借り物の身分と、何世紀にもわたる恥辱と政治の下に埋もれた一族の歴史を背負う跡取り娘。
スヴェルドリク・クリンゲンストロム。まだ倒していない者たちを基準にしてでしか、自身の価値を測ることができない天才剣士。
フレイヤ・ティーフェンブルン。外科医のように冷徹に他人の欲望を読み取る紫の瞳の少女。彼女はヴィーザルの中に、自分でもうまく定義できない唯一の衝動を見出す。
そしてそのすべての中心にあるのは、世界が重くのしかかる時、ヴィーザルが抱きしめる灰色のシリコンのフィギュア。彼が置いてきた「誰か」の面影。それは、すべてが変わってしまう前の「自分」と彼を繋ぎ止めるための錨(いかり)だった。
『希望の味』は、過去の忘却を美化する異世界物語ではない。これは、自分が何を失ったかを正確に理解し、本意ではないながらも他者との絆を築き、そして――本人が認めたがるよりもゆっくりとではあるが――「過去に固執することが、必ずしもさらなる高みへ至ることを妨げるわけではない」と学んでいく男の肖像である。
帰還こそが目的。その旅路こそが物語。
人間大陸サーガ・第1巻