あらすじ
『白百合は毒を隠す ~婚約破棄された薬師令嬢は、血染めの香水で真実を暴く~』
白百合は、
いつも静かに咲いていた。
誰にも気づかれぬ廊下の隅で、
薬草の匂いを指先へ残しながら。
甘い香水を纏う令嬢たちの中で、
彼女だけが、雨の匂いをしていた。
「薬臭い女」
そう笑われても、
白百合は言い返さない。
ただ黙って、
傷ついた花びらを隠していた。
けれど。
香りは嘘をつかない。
薔薇の奥に潜む毒も、
琥珀瓶に沈んだ欲望も、
シルクへ染み込んだ罪も。
彼女だけが知っていた。
帳簿の数字より冷たく、
夜会の宝石より鋭く、
真実は、いつも微かに香る。
婚約破棄の夜。
純白のドレスが嗤い、
深紅のワインが零れ、
男は別の女の腰を抱いた。
それでも彼女は泣かなかった。
その代わり、
静かに香水瓶の蓋を閉じた。
——終わりです。
そう告げるみたいに。
白百合は弱い花ではない。
踏まれても、
汚されても、
雪の下で根を伸ばす。
やがて毒を暴き、
偽りを裁き、
最後に残るのは。
誰にも奪われなかった、
たった一つの香り。
それはきっと、
自由の匂い。