あらすじ

職人としての思考のノイズが警鐘を鳴らし、私は無意識のうちに、濡れた布を持った手をドレスへと伸ばそうとした。 だが、その手首をぐいと強引に引かれ、私は彼の広い胸に再び閉じ込められる。 ハッと息を呑んだ拍子に、指先から濡れた布がポトリと床に落ちた。職人としての理性が、音を立てて手放されていく。 手に残る冷たく湿った薬液の感触と、彼から伝わる圧倒的な体温。先ほどまで部屋を支配していた死と陰謀の冷気すらも、むせ返るような彼の甘い熱に強制的に塗り潰されていく。 ふっ、と耳元で小さく笑う吐息が、直接鼓膜を甘く揺らした。 「ただの洗濯係が、毒物の成分を嗅ぎ分けるものか。……君は本当に私の救いだな。君がいなければ、私は不眠で倒れるか、この陰謀に足元を掬われていただろう。ああ、やはり君をこの部屋から出したくない」 低く掠れた声で囁かれ、首筋に甘いキスが落とされる。 背筋がゾクゾクと粟立ち、私は身をよじった。 「だ、だめです。ザイード様はすぐに対策の指揮を執らないと……それに、ドレスの処理も早く終わらせないと生地が……っ」 「実務はハキムたちに任せておけばいい。ドレスなど、後で新しいものを用意させれば済むことだ。私にとって今一番重要なのは、見事な働きをした君に、たっぷりと褒美を与えることだ」 「褒美って……んっ」 反論しようとした唇は、強引に、けれどどこまでも甘く塞がれた。 シュワシュワと微かに鳴っていた薬液の音も、朝の静寂も、すべてが彼の熱の中に溶けて消え去っていく。 冷徹な支配人は、私の前でだけはその仮面を外し、底なしの溺愛で私を甘く絡めとる。 地下の洗濯係だった私が、どうしてこんなことになってしまったのか。 答えは出ないまま、私は今日も彼の甘い拘束に抗うことを諦め、そっと目を閉じるのだった。

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小説を読もう2026/05/12
  • 現在の作品砂漠の迷宮ホテルの冷徹支配人に拾われました 〜最下層の洗濯係ですが、なぜか極甘に囲い込まれています〜