あらすじ

地方から上京したエンジニアの僕が、SNSで出会った男——奈良雪也と同居を始めるまでに、さほど時間はかからなかった。 万を超えるフォロワーを持ち、キャラクターパフォーマーとしてもコンサルタントとしても「成功者」を演じる雪也は、画面の外でも十分に魅力的だった。饒舌で、愛嬌があって、なぜか僕だけに「弱いところ」を見せた。 同居初日、部屋に充満していた澱んだ空気と、テーブルに散乱するジャンクフードの袋に、僕は小さな違和感を覚えた。けれどそれは、すぐに「僕が片付ければいい」という思考に上書きされた。 それが、全ての始まりだった。 洗われない食器。拭かれないこぼした食べ物。「後でやる」と言って三日が経つゴミ。SNSに載る「手料理」は僕が作ったものだった。「二人の幸せな日常」として投稿される写真の、フレームの外は荒廃していた。感謝の言葉は徐々に消え、僕の家事は「当然のこと」になった。 おかしいと思うたびに、雪也はこう言った。「お前が細かいんだよ」「そんなこと言ったっけ」「俺は何も悪くない」。 いつしか僕は、自分の記憶と判断を疑うようになっていた。 転機は、一冊のノートだった。エンジニアの習性で、僕はある日から記録をつけ始めた。日付、発言、金額、矛盾——データは嘘をつかない。積み重なった145日分の観察記録が示していたのは、「愛情」と呼んでいたものの正体だった。 これは、偶像が腐っていくのを間近で見ていた男の話だ。そして、腐臭に慣れる前に部屋を出た男の、静かな再生の記録でもある。

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小説を読もう2026/05/12
  • 現在の作品都合のいい家政夫はもういません-SNS欲求怪物(バケモノ)と同居した145日間の観察日記-