あらすじ
雨の夜、教師・江口桜次郎は、かつての教え子・榛名蛍に呼び出され、京東大学の古い温室で死体を発見する。遺体のそばに残されていたのは、片羽だけの蝶の標本。それは十三年前、蛍の家族が惨殺され、ただ一人生き残った事件の現場にもあったものだった。
新任教師だった江口と、欠席だらけの少年だった蛍。二人が積み重ねてきた七年の記憶が、現在の殺人と過去の真相を結びつけていく。
片方の羽を失った蝶は、誰の罪を示しているのか。これは、傷を抱えた少年と、彼を見捨てなかった教師が、消された真実にたどり着く物語。
【登場人物】
江口桜次郎
中学校教師。社会科担当。軽口と自虐が多く、教師らしく振る舞うのはあまり得意ではない。だが、生徒を「いなかったこと」にしない誠実さを持つ。かつて榛名蛍の担任だった。
榛名蛍
京東大学の学生。十三年前、家族を失った一家惨殺放火事件の唯一の生存者。背中に片羽のような火傷痕を持つ。現在の温室殺人事件で、過去の記憶と再び向き合うことになる。
相沢遼介
京東大学の院生。温室で遺体となって発見される。榛名家の過去と、榛名律の研究に近づいていた可能性がある。
水原佳乃
水原バイオテック関係者。十三年前の榛名家事件、そして現在の温室事件に関わる重要人物。榛名律の研究データをめぐる事情を知っている。
榛名忠
蛍の父。京東大学の植物研究者。事件直前、研究データをめぐって大学や企業と揉めていた。十三年前の惨劇の鍵を握る人物。
榛名灯里
蛍の姉。蝶の標本を作っていた。事件の夜、蛍に何かを託した可能性がある。
真壁彰
警視庁の刑事。現場で事実を積み上げ、事件の核心へ迫る。江口たちとともに、十三年前と現在をつなぐ謎を追う。
二階堂壮也
警視庁総務部広報課の警部補。情報の整理と人間関係の読み取りに長ける。江口の違和感を拾い、事件の構図を冷静に組み立てていく。
柿沼怜司
榛名家の過去に関わる人物。十三年前の事件、研究データ、蛍の記憶に接点を持つ可能性がある。
榛名蛍の叔母
蛍を引き取って育てた保護者。丁寧で穏やかだが、蛍の生活を強く管理している。江口はその「正しさ」に違和感を覚える。
松原先生
中学校の保健医。蛍の傷や体調を見守ってきた大人。江口に、蛍との距離の取り方を静かに示す。
浅野先生
二年二組の副担任。江口に蛍の事情を伝え、学校での蛍の様子を見守る。