あらすじ
彼の名字は誰も知らない。
教師も、ウシトラの名字を呼んでいるところを見た者はいない。
なぜそれで許されているのかも、誰も知らない――。
ひょろりと伸びた長い手足、猫っ毛の少し伸びた黒髪、切れ長の瞳。
「さあ。そんなことよりも、六那さま。そろそろ、屋敷のものが迎えに参りますが」
坂名財閥の令嬢である六那は、登下校も家の車だった。
しかし、六那はいま、それどころではない。
ティーカップをソーサーに戻すと、ひかえているウシトラを見あげた。
「あーもう。今日は、送迎いらない。あたし、用事ができたからさ!」
「はあ? しかし、もうこちらに向かってますが」
「ウシトラ。あなたの主人が、いいといってるの! 送迎車は帰らせてね」
「用事って、なんなんですか。もう、部活は終了する時間ですよ」
立ちあがり、部室から出て行こうとする六那を、ウシトラはあわてて引き留める。
「まさか、また勝手に探偵ごっこをするつもりですか」
「ごっことは失礼な!」
イラスト:ノーコピーライトガールさま