あらすじ

婚約破棄を告げられた日、わたし——ルクレツィア・ヴァレンティア公爵令嬢は、泣かなかった。「愛がない。堅苦しい。もっと自由な女性がいい」王太子エルドリック殿下の言葉は、あっさりとしていた。 まるで、使い終わった羽ペンを捨てるように。「承知いたしました」わたしも、あっさりと答えた。 そして——一冊の書類を取り出した。「では、契約違反の精算を行いましょう」王族の婚約は、ただの口約束ではない。 国家契約魔法によって効力を持つ、国家そのものを主体とした法的拘束——それが、この婚約の正体だった。一方的な破棄は重大違反。 違約金は金銭では払えない。 港湾の関税権、軍の指揮権、鉱山の採掘優先権……国家機能そのものが、代償として失われる。「そんなもの知らん!」と叫ぶ殿下に、わたしは静かに問い返した。 「署名なさいましたよね?」知らなかった、では済まない。 それが、契約というものだ。追い詰められた殿下は「払えばいい」と高を括るが、国家機能に代替などない。詰み——のはずだった。けれどわたしは、国を壊したかったわけではない。 ただ、責任を取らせたかっただけ。違約金の代わりに、わたしが提示したのは「契約遵守体制の導入」——王族が結ぶすべての契約を管理し、軽率な破棄を制度ごと不可能にする改革だった。「契約を軽んじる者に、国は任せられません」婚約破棄から始まったこの交渉は、やがて王国の制度そのものを塗り替えていく。軽い気持ちで約束を手放した王太子が支払う代償は、金でも領土でもなく——自由そのものだった。

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小説を読もう2026/05/11
  • 現在の作品婚約破棄されました——王太子殿下、契約違反につき“違約金は国家の主権の一部”となりますが、よろしいですか?